「ウム、なるほど」
伊太夫はうなずいて次へ移った。
――しかし、ここまで来て、いつまで躊躇(ちゅうちょ)してはいられない。隙をうかがって勇敢に江戸へ向って立とう。
日は、およそ××日。
落ちあう場所は――大阪から河内(かわち)裏街道をとって大津へ迂回(うかい)するつもり――その方が人目に立つまいと思う。で、途中の禅定寺峠(ぜんじょうじとうげ)を待ちあわす場所と定めておく。
どっちが早くとも、必ず、一方の来(きた)るを待つこと。
早駕(はやかご)三挺ご用意。十分に酒代(さかて)をくれ、道中肩つぎなし、なるべくは通し約束、賃銀にかけかまいなく、足ぶし腕ぶしの達者をえらんでおくこと。
等、等、等、なおさまざまにわたるしめしあわせであった。
脇汗はコチラ
日の来るのを待つらしく、酒のみの堀田伊太夫、ロクにない浪宅の道具を片っぱしから屑屋(くずや)に売っては、気前よく酒をのんでいる。
その朝は、いきなりお千絵に猿ぐつわをかけて、押入れに押しこみ、板戸の外から錠(じょう)をおろして戸外(おもて)へ出かけた。